2013年12月13日金曜日

福岡ケンビの会場のことなど



福岡ケンビでの江上茂雄展、会場風景の写真を少し整理しました(どれもこれも私が撮ったものなのでいまいちパッとしませんが...)。

展覧会が終わって早1か月(大牟田市立三池カルタ・歴史資料館の江上茂雄展は先日12月8日に終了したばかり)、まだまだいろんなことが進行中で、懐かしいという感慨は湧きませんが、会場を訪れてくださった方々の笑顔や溜息、涙なんかが思い出されます。

この会場は、展覧会企画者である私の「ああしたい、こうしたい」という思いを空間デザイナー(であり美術家でもある)坂崎隆一さんが(限られた予算と時間のなかで)みごとに具現化してくれたもの。

とくに水彩画を平面展示するための長ーい台や、絵を覆う木製カバーなど、たくさんの方が「こんな展示は見たことないけどとても見やすいし、茂雄さんが見ていた風景が見えてくるようだ」と共感を寄せてくださいました。

ちなみに坂崎さんは、同じく私が担当した「糸の先へ」(2012年)、「小石原焼と小鹿田焼 いとおしいやきものたち」(2010年)、「ぼくの久留米絣ものがたり」(2008年)などの会場空間も手掛けてくれた、展覧会を実現するうえで私がもっとも信頼するパートナーのひとりです。

また、江上茂雄さんのクレパス・クレヨン画を飾っていたシンプルで印象的な白い額。これは茂雄さんの次男であり、現代美術作家でもある江上計太さんにつくってもらいました。木材とスチレンボードによるこの額が茂雄さんの絵と調和し、作品がとても明るく見えたことは皆さんの記憶に生々しく残っていることでしょう。

DIY感にあふれたあのあたたかい展覧会場は、彼らの献身的な協力と茂雄さんの絵に対する愛情がなければ実現しませんでした。(たけ)









2013年12月1日日曜日

「ハンズさん」ってなに?(その1)

今回の江上茂雄展(での試み)についてのいろいろなことを機会を見て書いておこうと思います。

その一発目は意外なところで(?)「ハンズさん」について。

福岡ケンビの江上茂雄展はシリーズタイトルがついていました。それが「郷土の美術をみる・しる・まなぶ」。どんなシリーズなのかは、チラシにこう書きました。

本展は九州のローカルな美術をたのしく深く紹介するシリーズ展「郷土の美術をみる・しる・まなぶ」の5回目にして特別編になります。大人と子どもがときには一緒に、ときには別々に美術と向き合う場と時間をつくり出します。会場ではおもてなしスタッフ「ハンズさん」が来場者を気さくにお出迎えいたします。作品鑑賞のお手伝いをしたり、話し相手になったり、ちょっとしたクイズを出してみたり。ただし展覧会場での過ごし方は皆さん次第。ひとり静かに見るもよし、誰かと話しながら見るもよし、どうぞご自由にお楽しみください。

このいわゆる趣旨文に至るまでには展覧会の数をそれなりに重ね、すこしずつアップデートしてきたわけですが、それだけにどこに視点を置くかによって話は幾重にも広がっていきます。なので今回は「ハンズさん」について絞りましょう。

ハンズさんという仕組みがケンビで生まれたのはかれこれ11年前の2002年、「みる・しる・まなぶ」の前シリーズにあたる「アートにであう夏」の4回目として開催された「クイズ de アート」という、子どもたちを対象にしたいわば体験型の展覧会においてでした。

ハンズとはつまり「手」。作品と鑑賞者の「つなぎ手」として、作品保全のための監視はもとより、子どもたちに寄り添って、子どもたちがより楽しく、より深く鑑賞できるように手を携える役割が期待されました。

命名者は当時ケンビにいらした川浪さん。検索かけたら川浪さんの古い記事が出てきましたので、リンク貼っときます。

http://www.dnp.co.jp/artscape/view/recommend/0209/kawanami/kawanami.html


すでに私自身もケンビで働くようになって3年目に突入した頃のことですが、当時在籍していたのが隣の課でして(しかも知る人ぞ知る「県展」を担当しておりまして)、ですからじつはあまり詳細な経緯は知りません。けれど記憶では、ハンズさんが生まれるにはもうちょっと現実的な事情もあったように思います。つまり、通常の作品監視の仕方では、クイズやら機織りやら記念写真やらの体験で興奮が振り切り、ワイルドになった子どもたちから作品を守ることができない、という事情です。

「さあ、存分に遊びなさい」と言っておきながら「作品には触るな」「会場では暴れるな」と求めるのはそもそも酷な話で、子どもたちだって白けてしまいます。ですから「監視」というネガティブな役割ではなく、川浪さんが書いているように「ファシリテイター」というポジティヴな役割へと切り替えることで、この二律背反の荒波を泳ぎきろうとしたわけです。(ちなみに現在では「監視」ではなく「看視」という言葉が使われることも多くなり、私自身も後者を意識的に使うようにしています)

とはいえ展覧会が始まればもちろんながら想定外のオンパレード。日々メンテや修正に明け暮れたとはこれもまた川浪さんが書くとおり。しかし見た目の手作り感とかほのぼの感とはあいまって、美術館運営からすれば多分に実験的なこの試みはこれまた想定外の好評を受け、なんと次の年には第2弾「ふたたび!クイズ de アート」が開催されることに。(余談ですが私が初めて担当を任された企画展で、反省とか苦い思い出とか若気の至りとか満載)

ただしハンズさんという仕組みはこのように「クイズ de アート」という一つの展覧会からはじまった訳ですが、その種はもちろんその以前からありました。作品と鑑賞者、美術館と市民をつなぐことの大切さを考える教育普及的な意識は「アートにであう夏」というシリーズ名からも読み取れるでしょう。それが底流にあったからこそハンズさんは一過性の仕掛けではなく、現在も続く仕組みへと育っていくのです。

と言えばなんだかかっこよく聞こえますが、実はハンズさんは私たち美術館側が育てたというよりも、ハンズさんたちが自ら育ってくれたようなものなのです。

そのあたりはまた次回に。(たけ)