江上さんが「路傍の画家」であることを止める平成21年2月に描かれた水彩画の一枚「県道の朝」。
「路傍の画家」と呼ばれたことが象徴しているように、江上さんは道端に腰かけてよく街の風景を描いています。必然的にこの作品のように道路が向こうへと伸びていく絵がたくさん生まれるのですが、江上さんのそういったタイプの絵に惹かれることは個人的にはあまりありませんでした。
私自身の好みもあるでしょうし、ひょっとしたら江上さんの性格が奥行きを生む遠近法的な表現にあまり向いていないのかもしれない、と勝手に想像したりもしていました。
その中でこの絵は、ぐぐっと惹きつけられます。
画面の真ん中が明るく抜かれていて、目線と気持ちがイメージの向こうへと心地よく導かれると同時に、一見すると画面を汚しているような全体を覆う膜が風景に手触りをもたらし、風景が消失点の彼方へと霧散するのを押しとどめるのです。その揺らぎの中に遊ぶ心地よさと、ふしぎなリアリティ。
江上さんが「路傍の画家」として最後の最後にたどり着いた、融通無碍の境地と言えるのではないでしょうか。
田川展は会期が短く16日まで。この作品はじめ他の2会場で見られるものもたくさんありますが、けれど田川展でしか感じることのできない江上茂雄さんの姿と絵の魅力があります。
ぜひご覧いただければと、願っています。(たけ)